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俺カルブログ vol.2 中編         ファミコンランド─幻のチェーン店、資料なき記憶の交差点

更新日:10月22日

俺の思い出

MOTHERを売ってエロを買った──嘘偽りの通過儀礼

資料を探す道中で、俺は気づいた。俺の中には確かに存在している“ファミコンランドの一場面”がある。

それは、MOTHERを売ってエロを買った日の記憶だ。

MOTHER──1989年7月27日発売、任天堂の名作RPG。糸井重里が手がけたシナリオは、母性・家族・郷愁をテーマにしていた。「おかあさん」をタイトルに冠したゲームは、当時の俺にとって“優しさの象徴”だった。ゲームで初めて泣くほどの感動をくれた一生持ってようと誓ったゲームだ。赤い箱も説明書も美しく、文化の香りが漂っていた。中古市場でも人気が高く、状態が良ければ高価買取されるタイトルだった。

一度手放したが、再購入したほどの超名作。シナリオも音楽もとても良い。どんな悪人も母の記憶にゃかなわないのよ。
一度手放したが、再購入したほどの超名作。シナリオも音楽もとても良い。どんな悪人も母の記憶にゃかなわないのよ

でも俺は、それを売った。目的はただ一つ──麻雀学園 東間宗四郎登場。PCエンジン初の脱衣麻雀。1989年11月24日発売、フェイス製、HuCard。

当時の家庭用ゲーム機には、CEROのような年齢レーティング制度がまだ存在していなかった。

メーカーの自主判断に委ねられていた時代。だから、すっぽんぽんにできる脱衣麻雀でも、パッケージには年齢制限の表記がなかった。

そのゲームを見かけたときに純粋な俺は目が離せなくなった。販売から2年ほど経ち、水着にしかならないマイルド版が発売されていたこのゲーム。すっぽんぽんが初回出荷のみで、その数が希少なために中古市場ではかなりの高値だった。その金額1万800円だったと覚えている。

「ファミコンランドの平和は俺が守らねば!」そんな義憤にかられた俺は、何も知らない若者が道を誤らないように、ワイセツゲームの隔離に動いたのだ。

麻雀学園 東間宗四郎登場 平和なファミコンランドを騒がせた憎いヤツ! 今現在も所持しているが、付属のビデオが意味不明。
麻雀学園 東間宗四郎登場 平和なファミコンランドを騒がせた憎いヤツ! 今現在も所持しているが、付属のビデオが意味不明。

文化の劇場に紛れ込んだ“裏演目”を、俺の手で回収する──そう、これは俺なりの社会的使命だった。……まあ、嘘なのだが。

そのソフトを手に入れるために、なけなしの小遣いでは足りなかったエロい俺は、しびれるほど感動をくれて一生持っていようと思っていたファミコンソフトのMOTHERを売りに行った。意外と悩まなかった。舞台は、一宮市富士の2代目一宮店。ゲームセンタータイガーの隣にあった、俺たちの聖地だった。


GAMEPIAvol.11991年12月25日発売号P170「中古販売店活用術」より当時のショップのカウンター前。壁一面のゲームが勢いを感じる。当時のショップではあたりまえの風景
GAMEPIAvol.11991年12月25日発売号P170「中古販売店活用術」より当時のショップのカウンター前。壁一面のゲームが勢いを感じる。当時のショップではあたりまえの風景

カウンターで、俺は堂々とMOTHERを差し出した。「親の許可、ある?」と聞かれ、俺は即答した。「あります」……まあ、嘘なのだが。

カウンターに行く前、店内にあった新聞チラシの裏の買取表に、親の名前を汚い字で書いて提出した。高校生らしい、勢いだけで書いた雑な筆跡。それがすべてを物語っていた。店員のお兄ちゃんは俺を見た。その目は、同性だからこその哀れみと、そして「そこまでしてエロかよ…」という静かな嘲りに満ちていた。彼には俺の噓がわかっていたのだ。

俺は、文化と羞恥の両方を1万800円で買ったのだ。得難いエロスを手に入れた満足感と、嘘ついてまでエロを買いたかった高校生というレッテル。それが俺カルチャーの通過儀礼だった。

今思えば、これは“母親から離れて彼女を求める”という、男の成長過程の象徴だったのかもしれない。MOTHERという母性の象徴を手放し、エロという他者の身体に手を伸ばす。それは、文化的にも性的にも、俺が“少年”から“男”へと踏み出した瞬間──だったのかもしれない。……まあ、嘘なのだが。

文化の劇場には、表も裏もある。そして俺は、その裏口から入場した。

2025年撮影 一宮市富士3丁目1-33 ゲームセンタータイガーとファミコンランドの跡地。店舗は同一の敷地内にあったが、ファミコンランド専用駐車場の狭さは特筆だった。名店タイガーも2017年に閉店。跡地がスターバックスというのは、この土地に人を惹きつける利便性の良さがあるためであろう
2025年撮影 一宮市富士3丁目1-33 ゲームセンタータイガーとファミコンランドの跡地。店舗は同一の敷地内にあったが、ファミコンランド専用駐車場の狭さは特筆だった。名店タイガーも2017年に閉店。跡地がスターバックスというのは、この土地に人を惹きつける利便性の良さがあるためであろう

■ 確認済みの直営店と地理的分布

ファミコンランドの直営店は、愛知県西部から岐阜県南部にかけて集中していた。これは、株式会社あくとの流通戦略が中京圏ローカル文化を軸にしていたことを示している。

店舗は大きく分けて三層構造で展開されていた。

  • 都市型:駅から徒歩圏、一宮駅前店や大垣店など

  • 生活圏型:住宅街・自転車圏、岩倉店や一宮店(富士)など

  • ロードサイド型:車利用前提、森本店・稲沢桜木店・大垣バイパス店など

それぞれが地域の文化的役割を担い、ファミコンランドというブランドの多様性を支えていた。

電話帳・地図・記憶を照合し、直営店の一覧を再構成したことで、文化的地理が立ち上がってくる。地図に載っていない記憶の断片が、編集によって新たに可視化されていく。

尚、この表は俺が私的に通った店が優先な為、稲沢市、岩倉市、名古屋市は触れる程度となっている。現状はかなり不格好だが後日の調査を待って欲しい。

店舗名

所在地

電話番号

創業年

備考・文化的背景

初代一宮店

愛知県一宮市本町3丁目8番・村照商店北

0586-24-3519

1985年

初期本店。都市型。駅前カルチャーの核。ゼンリンMAP記載あり87年確認

一宮駅前店

愛知県一宮市栄3丁目・旧今井商店跡地

0586-24-3519

1992年

駅前再配置。都市型。ゼンリンMAPで93年から記載あり。電話番号を旧一宮店より継承。

二代目一宮店

愛知県一宮市富士3丁目1-33

0586-24-7665

1992年

ゲーセンのタイガー隣接。ゼンリンMAPで93年記載。実質的中心店舗として機能。電話帳より一宮店の名称がこちらという事実から推察。

一宮北店

愛知県一宮市奥町字神田66-1~2

0586-61-8775

不明

直営。広めの敷地。ロードサイド型店舗。現在リサイクルマート一宮店

森本店

愛知県一宮市森本5-22-7

0586-24-2341

1996年頃

直営。一宮市内では最大規模。ロードサイド型

稲沢店

愛知県稲沢市高御堂2丁目13-2

0587-29-9128

不明

稲沢進出一号店か?タウンワーク94年版に登場していることから91年か92年頃開店と思われる。生活圏型

稲沢小池店

愛知県稲沢市小池3丁目12-4・5

0587-21-1525

不明

直営。タウンワーク94年版では稲沢2号店表記。開店は93年頃か?ロードサイド型だが店舗は普通サイズ

稲沢桜木店

愛知県稲沢市桜木2丁目18-1

0587-23-9128

不明

直営。西尾張中央道に面した店舗。ロードサイド型。

岩倉店

愛知県岩倉市新柳町3丁目64

0587-38-1098

不明

直営。生活圏型。店舗の形状や色合いが往時を偲ばせる。現在お弁当屋さん

アピタ港店

愛知県名古屋市港区当知町2丁目1501

052-384-3313

不明

直営。唯一のテナント型と思われる。

ハッピーほづみ店

岐阜県本巣郡穂積町別府733-1

05832-7-2778

不明

直営。ヤナゲン敷地内。岐阜では最大。ロードサイド型。現在も残る往時の壁色の緑。岐阜県のファミコンランドで最後まで戦い続けた勇者。

大垣店

岐阜県大垣市伝馬町17

0584-78-1159

1986年頃

直営。生活圏型。おそらく最初の支店。岐阜県で最初のファミコン専門店か?

大垣バイパス店

岐阜県大垣市楽田町3丁目50 コーポラス21 1F東2軒目

0584-81-1540

不明

直営。国道21号線にある。隣がビデオレンタル。ロードサイド型。


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